LOGINパート6
誰かがもう伝えたのだろう。あるいはアイダが、彼にだけは知らせるべきだと判断したのかもしれない。
リュゼリアは上体を起こそうとしたが、ヴィルレオが先に言った。
「寝ていろ」
低い声だった。命令の形なのに、どこか焦りが滲む。
「でも……」
「無理をするなと言ったはずだ」
その言葉に、昼間の食堂で交わした短い会話がよみがえる。顔色が悪い。無理はするな。たったそれだけの言葉を、彼は覚えていたのだろうか。
ヴィルレオは寝台の脇に立ったまま、じっと彼女を見た。青灰色の瞳がいつもより近い。その視線の強さに、リュゼリアの喉が細く上下する。
「大したことではありません」
そう言うしかなかった。そう言ってしまうのは、彼を安心させたいからなのか、それともこれ以上自分に関心を向けられることに慣れていないからなのか、自分でもわからない。
「医師が診るまでは断定するな」
「……はい」
彼の手が、ためらうように一度だけ動いた。額に触れるつもりだったのかもしれない。けれど実際には、伸びかけた指先は途中で止まり、そのまま拳をつくって引かれていく。
触れられなかったことに安堵したのか、落胆したのか、リュゼリアは自分の感情を見分けられなかった。
「今夜の会議は延期させる」
「そんな、そこまでなさらなくても」
「する」
有無を言わせぬ声。公爵として人を従わせる時の声だった。リュゼリアはそれ以上何も言えない。
「旦那様、お忙しいのに……」
「忙しいからといって、お前が血を吐いているのを放っておけと?」
その言い方は、責めるようでもあり、自分自身に向けた苛立ちのようでもあった。
リュゼリアの胸が不意にきゅうと縮む。
ああ、この人は、本当に冷酷というわけではないのだ。
ただ、やさしさの表し方があまりにも下手で、届く前に凍ってしまうだけで。
そんなふうに思ってしまうから、いつまでも諦めきれないのだと、彼女はようやく自覚した。
「ごめんなさい」
小さく漏れた謝罪に、ヴィルレオの眉がわずかに寄る。
「なぜ謝る」
「……ご迷惑を」
「迷惑ではない」
即答だった。
迷惑ではない。
その一言が、どうしようもなく胸に沁みた。三年の結婚生活の中で、彼が彼女個人に向けてそれほど早く感情を返したことが、ほとんどなかったからだ。
けれど、だからこそ苦しい。
たった一言で救われそうになる自分が、あまりにも飢えている。
ノックの音がして、医師が到着したと告げられた。診察のため、ヴィルレオはいったん脇へ退く。寝台の端から離れた彼の体温も、部屋の空気から一緒に引いていくように思えた。
年配の医師は丁寧に礼をし、脈をとり、喉の状態を見て、胸に聴診器を当てた。冷たい金属が肌に触れた瞬間、リュゼリアは小さく身を震わせる。
「深く息を」
言われるまま吸う。途端に咳が出る。
「もう一度」
吸って、吐く。胸の奥でかすかな濁りが鳴るような感覚があった。
医師の表情は慎重だった。診察を終えると、彼は道具を片付けながら、短く言う。
「本日は安静になさってください。喉の傷みと、かなりの疲労が見られます。血は咳の刺激によるものの可能性もありますが……」
「可能性も、ということは」
ヴィルレオが低く問う。
「一度、詳しくお調べしたほうがよろしいでしょう。少なくとも、これ以上無理を重ねてよい状態ではございません」
言葉は慎重でも、その曖昧さがかえって不安を深くした。
リュゼリアはシーツの上で指先を絡める。爪の先が白くなるほど力が入っていることに、自分では気づかなかった。
「明日、改めて診察の時間をとります」
「頼む」
ヴィルレオの返答は短い。だが部屋を満たす沈黙は、それだけで十分重かった。
医師が去ったあと、アイダも必要な薬湯の手配のために席を外す。寝室には、リュゼリアとヴィルレオだけが残された。
夫婦でありながら、二人きりになることが稀な関係。その奇妙さを、いまさら言葉にすることもできない。
窓の外はすでに夕方へ傾き、薄青い光が寝台の縁をなぞっていた。室内のランプにはまだ火が入れられておらず、互いの輪郭は少しずつ影に沈み始めている。
「……心当たりはあるか」
やがてヴィルレオが言った。
「心当たり?」
「いつから具合が悪い」
その問いに、リュゼリアは少し考えた。
「前から、少し疲れやすくはありました。でも、たいしたことではないと思って」
「いつからだ」
問いが重なる。彼はこういう時、逃がさない。
「……秋の終わりごろから、でしょうか」
「なぜ言わなかった」
責める声ではない。だが、強い。
リュゼリアは視線を落とす。シーツの刺繍がぼやけて見えた。
「お忙しい方に、申し上げるほどのことではないと思って」
「……いつだ」「王都にて、奥様が夕食の席で倒れかけた翌日でございます。奥様付きの医師と侍女頭に確認を、と」 記憶の底に、薄い影が浮かぶ。 あの日、彼は何と言った。 多忙だった。王宮からの呼び出しが続いていた。取引の問題もあった。リュゼリアの体調について、医師が診ているならそれでよい、と短く返した覚えがある。 そこで止めたのは自分だ。 クラウスではない。 ヴィルレオは手を握り込んだ。 爪が掌へ食い込む。「そうか」 それだけを言うのが精一杯だった。 クラウスは責めなかった。 その沈黙がかえって重い。「旦那様」 やがてクラウスが静かに言った。「今からでも、できることはございます」「……ああ」「すぐに手配いたします」 クラウスが出ていく。 扉が閉まると、部屋の中にはまた雨音だけが残った。 ヴィルレオは机の上の診断書を見つめた。 摂取物の精査を要す。 その一文は、ただの疑いにすぎない。 まだ何も確かではない。 それでも彼には、リュゼリアが毎朝何の疑いもなく薬を飲み、茶を口にし、苦しみを病の一部として受け入れてきた姿が浮かんでしまう。 奥様のためです。 よく眠れますように。 咳が楽になりますように。 そんな言葉の下で差し出されるものを、彼女は拒めなかっただろう。 いや、拒む理由を持たされていなかった。 彼女はいつも、与えられた苦しみに名前をつけるのが遅かった。 冷たい沈黙を、夫の多忙だと思おうとした。 孤独を、妻としての務めだと思おうとした。 身体の異変さえ、病なのだから仕方がないと飲み込もうとした。 その従順さにつけ込んだ者がいるのなら。 あるいは、悪意ではなくとも、彼女の身体を軽んじ、眠らせておけばよい、静かにさせておけばよいと考えた者がいるのなら。 ヴィルレオの中で、低く冷たい怒りが音もなく広がっていった。 怒鳴り散らすような怒りではなかった。 もっと重く、もっと底冷えのするものだった。 だが、その怒りの奥に、どうしようもない恐怖がある。 もし、本当に何かが混じっていたとして。 もし、それが彼女の命を縮めていたとして。 その時間は戻らない。 奪われた食欲も、眠らされて失われた夜も、脈の弱りも、咳の深まりも、彼女が「自分の病だから」と受け入れてしまった苦しみも。 戻らない。 ヴィルレ
ヴィルレオの指先が、紙を強く押さえた。 紙は薄く、破れそうだった。だが力を緩めることができない。 なぜ消えた。 誰が消した。 医師が自ら判断して削ったのか。誰かに求められたのか。あるいは、正式な診断書が屋敷の中を通る過程で差し替えられたのか。 問いが一気に立ち上がる。 そして、そのどれもが、リュゼリアの咳へ繋がっていく。 夕刻以降の傾眠傾向。 そういえば、王都にいた頃のリュゼリアは、夜になるとよく眠っていると報告されていた。体が弱いから。疲れやすいから。薬が効いているから。そんな説明を聞いて、それ以上考えなかった。 食が細いことも、病のせいだと思っていた。 顔色が悪いことも、病のせいだと思っていた。 指先が冷えていることも、歩く速度が落ちていることも、夕食の席で時折言葉が途切れることも、全部、病のせいだと。 病は確かにあった。 それは疑いようがない。 けれど、もし。 もし、その病の影に隠れて、別のものが彼女の体力を削っていたのだとしたら。 彼は椅子から立ち上がった。 急に立ったせいで、椅子の脚が床をこすり、低い音がした。控えの間にいたクラウスがすぐに扉を叩く。「旦那様」「入れ」 クラウスが入ってきた。 夜更けにもかかわらず、その身なりは乱れていない。いつ呼ばれても動けるようにしていたのだろう。彼はヴィルレオの顔を見るなり、ただ事ではないと悟ったらしく、余計な挨拶を省いた。「何かございましたか」 ヴィルレオは机の上へ二枚の診断書を並べた。「読め」 クラウスは静かに近づき、まず正式な診断書へ目を走らせた。次に、控えの紙へ視線を移す。 その目が、ほんのわずかに鋭くなる。「……こちらの一文が、正式な書面にはありません」「ああ」「摂取物の精査を要す、と」 クラウスの声は低かった。 ヴィルレオは机に手をついた。「王都の本邸に残っているものをすべて洗え。リュゼリアが飲んでいた薬、茶、蜜薬、食事に混ぜられていたもの、医師からの処方、薬局からの納品、侍女頭の記録、料理場の記録、全部だ」「承知いたしました」「明朝を待つな。今すぐ使いを出せ」 クラウスは一拍だけ黙った。 それは躊躇ではなく、必要な手順を頭の中で組み立てるための沈黙だった。「王都は雨です。夜間の馬車は危険ですが、馬を替えれば夜明け前には本邸へ通達
雨は、夜になっても止まなかった。 激しく叩きつける雨ではない。窓硝子に細い指を滑らせるような、静かな雨だった。けれど、その静けさがかえって館の中の音を際立たせる。暖炉の薪が崩れる音。遠い廊下を歩く使用人の足音。壁の向こうで扉が閉まる気配。雨粒が窓枠に溜まり、時折、小さくこぼれる音。 ヴィルレオは、そのすべてを聞いていた。 寝室へ戻れと言われたわけではない。誰も彼を咎めてはいない。けれど、リュゼリアの部屋の前にいつまでも立っているわけにもいかず、彼は隣の小さな控え室へ移っていた。 灯りは落としていない。 机の上には、未処理の書類が広げられている。王都の屋敷から運ばせた帳簿の写し、使用人の配置表、リュゼリアの療養に関する医師の報告書、別邸で必要な物資の一覧。 どれも目を通すべきものだった。 だが、文字はまるで紙の上で冷たく沈んでいるだけで、彼の頭へ入ってこなかった。 昼間のリュゼリアの咳が、まだ耳の奥に残っている。 細い身体が長椅子の上で折れるように前へ傾き、喉を裂くような咳をこらえ、呼吸を探していた。手を伸ばしかけた。けれど、触れていいのか、どう支えれば苦しませずに済むのか、それすらわからず、彼の手は途中で止まった。 結局、動けたのはアイダだった。 自分は立ち尽くしていただけだった。 何かしたいと思った。 けれど、何をすればいいのかわからなかった。 それは今に始まったことではない。ヴィルレオは、ずっとそうだったのだろう。彼女が苦しんでいた時、自分は何を見ればよいのかわからぬふりをした。何を聞けばよいのかわからないから、聞かなかった。どう触れればよいのかわからないから、触れなかった。 その沈黙を、冷静さだと思っていた。 今になって思えば、あれはただの怠慢だった。「ここへ来て、少しだけ生きている気がするようになったの」 夕方、リュゼリアはそう言った。 穏やかな声だった。 責める声ではなかった。 だからこそ、その言葉は刃になった。 王都の屋敷で、彼女は生きている気がしていなかったということだ。夫のいる家で、夫の名を冠した屋敷で、妻として暮らしていたはずの時間の中で。 彼女は、ただ削られていた。 雨音が、窓を薄く叩く。 ヴィルレオは机の上の紙を一枚取った。目を通していない書類の束から、偶然指に引っかかっただけの封筒だった。
◇ その夜、雨が降った。 窓を細かく打つ、静かな雨だった。嵐ではない。だが、春の前の冷たい雨は、館じゅうの空気を少しだけ重くする。暖炉の火がいつもよりあたたかく感じられ、廊下を歩く人の足音まで湿りを帯びるようだった。 リュゼリアは寝台へ移されたあとも、しばらく眠れなかった。 雨の音を聞きながら、胸の奥に残る咳の痕を感じていた。今日は昼にも強く咳き込んだ。朝だけではなかった。明日はどうだろう。明後日は。そう考えかけて、やめる。 先を数えたところで、咳は止まらない。 ただ、こうして雨の夜にも自分が“怯えるだけではない”ことに、ふと気づく。 怖くないわけではない。 怖い。 咳が消えないことも、少しずつ食べられなくなっていくことも、疲れやすくなっていくことも。 けれど、それと同じだけ、自分はまだ花の咲くところを見たいと思う。明日の風が弱ければいいと思う。白いマーガレットの花弁がどこまで開くのか、青いネモフィラがどれだけ色を深めるのかを見たいと思う。 それは生きたいということなのだろう。 病が消えなくても。 体が確実に蝕まれていても。 その二つは、同時に存在できるのだと、ここへ来てからようやく知った。 部屋の隅では、アイダが静かに本を閉じた。「奥様」「何?」「おやすみになれそうですか」 リュゼリアは少しだけ考えてから、微笑む。「ええ。……今日は少しだけ」 アイダは寝台の脇へ近づき、掛布の端を静かに整える。「夜中に咳が続きましたら、すぐにお呼びくださいませ」「ええ」「遠慮なさってはいけません」「わかっているわ」 そう答えながら、以前の自分なら呼ばなかったかもしれないとリュゼリアは思う。 耐えられる程度なら、一人で耐えた。 誰かを起こすほどではない。 朝まで待てばいい。 そんなふうに考え、自分の苦しみをいつも小さく扱っていた。 だが今は、必要なら呼んでもいいと思える。 アイダは迷惑そうな顔などしない。 ミナも、医師も、館の侍女たちも、自分の咳によって空気を壊されたとは思わない。 苦しい時に苦しいと言っても、誰かの時間を奪った罪人にはならない。 それを知れたこともまた、この別邸で取り戻したものの一つだった。 雨の音は途切れない。 窓の外の花壇も、今は冷たい雨に濡れているだろう。 白い花弁は重みで
咳の痛みが引いたあと、リュゼリアはゆっくり目を開けた。 窓の外は夕方に近い色へ変わっている。部屋の隅ではヴィルレオがまだ椅子に座っていた。彼は彼女が目を開けたのにすぐ気づき、身を起こす。「水は」「大丈夫」「熱は」「少し、落ち着いたわ」 そう答えると、彼はほんのわずかに息を吐いた。その安堵があまりにも露骨で、リュゼリアはかえって少しだけ困ってしまう。「旦那様」「何だ」「そこにいてくださるのはありがたいけれど」 言葉を選ぶ。責めたいのではない。けれど、その張りつめ方の中にいると、自分のほうまで余計に息が詰まりそうになる。「そんなに苦しそうなお顔をなさらないで」 ヴィルレオの眉がわずかに寄る。「していたか」「ええ」「……そうか」 それだけしか返ってこない。だが、それが彼なりの精一杯なのだろうともわかる。 リュゼリアは少しだけ目を伏せた。「咳が消えたわけではないの」「……」「ここへ来たからって、急に治るわけでもない」「わかっている」「ええ。頭では、ね」 その一言で、ヴィルレオが黙る。 そうなのだ。彼は頭ではわかっている。医師の説明も聞いている。余命半年という言葉も聞いた。けれど実際にこうして、穏やかな暮らしの中でなお咳が消えない現実を見せつけられると、身体のほうが受け止めきれていないのだろう。 リュゼリアはそのことを責められない。 自分ですら、こうして静かな館で花を見て、ひとり分の食卓で少しずつ食べ、土の匂いのする午後を知ってもなお、体が確実に蝕まれていることに時々ひどく驚くのだから。 穏やかさは、病を止めない。 ただ、苦しみの中で少しだけ呼吸をしやすくするだけだ。 それだけなのに、その“それだけ”がどれほど大きいかも、今の自分にはわかっている。「わたくし」 リュゼリアは小さく言った。「ここへ来て、少しだけ生きている気がするようになったの」 ヴィルレオが顔を上げる。「ええ。咳もするし、熱も出るし、立っていられない日もある。……でも、それでも、前よりは“生きている”の」 言葉にして、自分でもその真実味に少し驚く。 病んでいるのに。 弱っているのに。 たしかに少しずつ身体は遠ざかっていくのに、それでも前より“生きている”と感じる。 それはきっと、王都での時間がどれだけ生きている実感から遠かったかと
「……花は」 少ししてヴィルレオが言う。「昨日より開いたな」「ええ」 リュゼリアはようやく外から視線を離し、薄く笑った。「白のほうが先にたくさん」「青はまだ小さい」「でも、根はついたみたい」 その会話のあいだは、咳も痛みも少しだけ遠い。花の話をしている間だけは、自分が病んでいることを忘れるわけではないが、それだけではなくなれる。 けれど、その穏やかさも長くは続かなかった。 次に喉へ上がってきた咳は、朝より深かった。「っ……、ごほ、……っ、げほ、ごほ……!」 胸が一気に引き絞られる。長椅子の縁を掴む指に力が入り、視界の端が白くなる。喉の奥が焼けるように痛み、息を吸おうとするたびにまた咳が返ってくる。前かがみになりかけたその瞬間、反射的にヴィルレオが立ち上がった気配がした。 手が伸びかける。 けれど、その手は途中で止まる。 その一拍のためらいが、今の二人のすべてみたいで、リュゼリアは咳の痛みの中でそれを感じた。 結局、先に動いたのはアイダだった。すぐに水を差し出し、呼吸が整うのを待つ。背へ触れる手つきも、かつての焦りを失っている。彼女はもう、リュゼリアの咳の波を知っている。 対してヴィルレオは、長椅子の脇で立ち尽くしていた。 彼の顔を見る余裕はなかった。だが、その沈黙の重さだけでわかる。何かしたいのに何もできない、そのぎこちなさが空気へ滲んでいる。 咳は長かった。 ようやく落ち着いた時には、胸の内側に刃物の跡みたいな痛みが残り、目尻にはまた涙が滲んでいた。リュゼリアはゆっくり息を整えながら、差し出された布で口元を拭う。赤いものはない。それだけは少し救いだった。「……大丈夫」 掠れた声でそう言うと、ヴィルレオが低く問う。「それを、毎日か」 その声には、驚きと、怒りに近い痛みと、どうしようもない無力が混ざっていた。 リュゼリアは少しだけ目を閉じる。「毎日、というわけではないわ」「だが、あるのだろう」「ええ」 隠しても仕方がないことだった。「朝に少し。夜に少し。……あと、こういうふうに時々」 ヴィルレオは何も言わない。 その沈黙が、まるで彼自身の呼吸まで止めているように感じられる。「前より、増えているのか」 やがて、低い声が落ちる。 リュゼリアは答えるまで少しだけ間を置いた。 嘘をつくことはできたかもし